白内障の手術を考え始めたら:時期の目安と準備

60代も半ばを過ぎると、同年代が集まったときの話題に、目のことが増えてきます。夜の運転がどうも怖くなった、明るいところがやけにまぶしい、そろそろ手術を考えている。そんな話が、血圧や膝の話と同じくらい自然に出てくるようになりました。
白内障は、年を重ねれば多くの人が向き合うことになる目の変化です。手術を受けるかどうか、受けるならいつか。迷っている本人も、それを見守る家族も、知っておくと落ち着いて考えられることがあります。私は医師ではありませんので、ここでは一般に知られていることを整理し、眼科で何を尋ねればよいかを書き留めておきます。判断そのものは、かならず眼科の医師と相談して行ってください。
白内障は、目の中のレンズが曇っていく変化
目の中には、カメラのレンズにあたる水晶体があります。本来は透明で、入ってきた光を通して、目の奥の網膜にピントを合わせています。白内障は、この水晶体が濁ってくる状態です。
原因としてもっとも多いのは加齢です。濁りは何年もかけてゆっくり進むことが多く、進み方には個人差があります。加齢のほかに、糖尿病などの病気、薬の影響、目のけがなどがきっかけになることもあるとされています。
ひとつ知っておきたいのは、いったん濁った水晶体を薬で元の透明な状態に戻すことはできない、とされている点です。濁りを取り除くには手術が必要になります。かといって、白内障と分かったらすぐに手術というわけでもありません。濁りが軽く、暮らしに困っていなければ、定期的に検査を受けながら様子を見ることも多いのです。
様子を見ているあいだも、医師に言われた間隔で検査を受けることは続けてください。そのうえで、まぶしい日は帽子やサングラスを使う、夜の運転はなるべく控える、読書のときは手元の照明を明るくする、といった暮らしの工夫で、しばらくは不便を和らげられることもあります。工夫しても困ることが増えてきたら、それを医師に伝える時期です。
見え方の変化は、本人より家族が先に気づくことも
白内障の症状は、少しずつ現れます。よく挙げられるのは次のようなものです。
- 全体に白っぽくかすみ、霧の中にいるように感じる
- 晴れた日の屋外や、明るい照明がまぶしい
- 夜、対向車のヘッドライトがにじんだり、まぶしくて前が見えにくかったりする
- 片目で見ても物が二重、三重に見える
- 色がくすんで、黄色っぽく見える
濁りの出かたによっては、一時的に近くが見やすくなることもあります。老眼鏡なしで新聞が読めるようになったと思ったら、実は白内障による変化だった、ということもあるそうです。眼鏡を新しくしても合わない、度数がすぐに変わる、というのもひとつのサインです。
変化がゆっくりなため、本人は見え方に慣れてしまい、気づきにくいものです。家族のほうが先に、テレビに近づいて見ている、夕方になると出かけたがらない、段差でつまずくことが増えた、といった様子に気づくことがあります。
ただし、こうした見えにくさは、白内障だけでなく、緑内障や網膜の病気など別の原因でも起こります。自分で「白内障だろう」と決めつけず、まず眼科で検査を受けてください。主な目の病気については目の病気の解説ページに一覧があります。
また、急に見えなくなった、目の強い痛みや頭痛、吐き気がある、視野の一部が欠けた、という場合は、白内障のゆっくりした進み方とは違います。様子を見ずに、その日のうちに眼科を受診してください。
手術の時期は、暮らしの困りごとと医師の判断で決まる
視力がいくつになったら手術、という決まった数字があるわけではありません。一般には、見えにくさのために日々の暮らしで困っているかどうかが、大きな目安になるとされています。
たとえば、こんな場面です。
- 車の運転に不安がある。運転免許の更新で視力が心配だ
- 本や新聞を読むのがおっくうになった
- 囲碁や裁縫、庭仕事といった趣味がしにくくなった
- 仕事で細かい字や画面を見るのがつらい
- 段差が見えにくく、転ぶのが怖い
同じ程度の濁りでも、毎日車を運転する人と、ほとんど家で過ごす人とでは、困りぐあいが違います。だからこそ、自分の暮らしで何に困っているのかを、医師に具体的に伝えることが判断の助けになります。
暮らしの都合も、時期を考える材料になります。仕事を続けている人、家族の介護をしている人、孫の世話を引き受けている人は、手術と術後の通院のための時間をいつなら確保できるかを考えておく必要があります。農作業や庭仕事のように、土やほこりに触れる作業が多い人は、季節の段取りも気になるところでしょう。こうした事情も遠慮なく医師に話してかまいません。
そのうえで、手術を勧めるかどうかは、医師が目の状態を診て判断します。濁りの程度だけでなく、ほかの目の病気の有無や、全身の状態もあわせて考えます。白内障の状態によっては、暮らしの困りごとがそれほどでなくても、早めの手術を勧められることがあります。反対に、もう少し様子を見ましょうと言われることもあります。それもひとつの判断です。
診察のときに聞いておきたいことを、あらかじめ紙に書き出しておくと、落ち着いて話ができます。
- 今の白内障の程度と、ほかの病気がないかどうか
- 手術をするとしたら、どのくらいの時期が考えられるか
- 両目とも手術が必要か。片目ずつになるか
- 日帰りか入院か。術後の通院はどのくらいか
- 眼内レンズの種類と、術後に眼鏡が必要になるかどうか
- 費用の目安をどこで確認できるか
説明を聞いても迷うときは、ほかの眼科の意見を聞いてみることもできます。納得して決めたことは、手術のあとの通院や点眼を続ける力にもなります。
検査から術後まで、おおまかな流れ
施設によって細かい手順は違いますが、一般的な流れを知っておくと見通しが立ちます。
手術前の検査
視力や眼圧、目の奥の検査のほか、眼内レンズの度数を決めるために、目の長さや角膜のカーブなどを測ります。持病や飲んでいる薬についても尋ねられるので、お薬手帳を忘れずに持っていきましょう。血液を固まりにくくする薬など、手術に関わる薬もあるため、自分の判断で止めたりせず、医師の指示に従ってください。
手術
白内障の手術は、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを入れるものです。局所麻酔で行われることが多く、日帰りで行う施設もあれば、入院で行う施設もあります。両目とも手術が必要な場合は、片目ずつ日を空けて行うのが一般的です。
手術の当日は、化粧をしない、前開きの楽な服で行く、食事や普段の薬をどうするか、といった指示が施設から出ることがあります。手術中は顔に布がかけられ、目を動かさないように声をかけられることが多いと説明されています。何をどう準備すればよいかは、施設ごとの説明に従ってください。
片目ずつ手術を受けるあいだ
片目の手術を終え、もう片方の手術を待っているあいだは、左右の見え方や度数に差が出て、一時的に見えにくく感じることがあります。距離感がつかみにくくなる人もいるので、階段や車の乗り降りには気をつけたい時期です。新しい眼鏡をつくるのは、両目の手術が終わって見え方が落ち着いてからにするよう勧められることが多いので、急いで眼鏡店に行く前に、医師に時期を確かめておきましょう。
眼内レンズの選び方
眼内レンズには、大きく分けて単焦点レンズと多焦点レンズがあります。
単焦点レンズは、ピントが合う距離がひとつです。遠くに合わせれば手元を見るときに眼鏡が必要になり、手元に合わせれば遠くを見るときに眼鏡が必要になります。どの距離に合わせるかは、暮らし方を伝えたうえで医師と相談して決めます。術後に手元用の眼鏡をつくる場合の考え方は、老眼鏡と遠近両用のコラムが参考になります。
多焦点レンズは、複数の距離にピントが合うように設計されたレンズで、眼鏡を使う場面を減らせることがあります。一方で、見え方の感じ方には個人差があり、夜間に光がにじんで見えるなど、合う人と合わない人がいるとされています。また、多焦点レンズの一部は、手術そのものは保険の対象でも、レンズにかかる分などが選定療養として追加の自己負担になったり、種類によっては全額が自費になったりすることがあります。費用は施設によって違うため、手術を受ける施設で確認してください。
どちらがよいかは、目の状態と暮らし方によります。医師とよく話し合って選ぶものだと考えておけば、迷いも少し軽くなるはずです。
手術のあと
手術の翌日に診察があることが多く、その後もしばらくは決められた日に通院します。炎症や感染を防ぐための点眼を、医師の指示どおりに続けることになります。
手術の前に整えておきたいこと
戸惑いやすいのは、手術そのものより、むしろ前後の段取りです。次のことは、早めに家族と話しておくとよいでしょう。
- 付き添いと送り迎え。手術当日は目が保護されていて、見えにくい状態で帰ることになります。家族の付き添いか、タクシーなどを手配しておきます
- 車の運転。手術当日は運転できません。運転を再開してよい時期は、医師に確認してください
- 点眼の段取り。術後は複数の目薬を決まった回数さすことがあります。時間と種類を表にして目につく場所に貼る、さす前に手を洗う、容器の先がまつげや目に触れないようにする、といった工夫が役に立ちます
- 洗顔、洗髪、入浴、化粧。術後しばらくは制限があるのが一般的ですが、期間や方法は施設や目の状態によって違います。説明を紙に書き留め、その指示に従ってください
- 目の保護。目をこすらないこと、寝ている間に無意識にさわらないよう保護用の眼鏡などを使うことを指示される場合があります
- 仕事や家事、旅行の予定。通院の日程を先に確かめてから、予定を組みます
通院に時間がかかる地域に住んでいる場合は、通院の回数と交通手段を、とくに早めに考えておきたいところです。通院に時間がかかる地域での眼科との付き合い方も読んでみてください。初めての眼科で戸惑わないよう、受診当日の流れと持ち物も用意しています。
家族として、そばにいる側から
親の白内障をめぐって、家族の側が気をもむことは少なくありません。そろそろ手術を考えたほうがいいのに、本人は「まだ見える」と言う。よくある構図です。
本人には本人の理由があります。手術が怖い、通院が面倒、家族に迷惑をかけたくない。頭ごなしに手術を勧めるより、「夜の運転で、ひやっとすることはない?」「この前、玄関の段差でつまずいたよね」と、具体的な場面をもとに話すほうが、耳を傾けてもらいやすいものです。
診察にはできるだけ同席し、説明を一緒に聞くのもよい方法です。年を取ると、診察室で聞いた話をあとから思い出せないことがあります。家族がメモを取り、帰り道に「先生はこう言っていたね」と確かめ合うだけでも、本人の安心につながります。記者を長く続けた癖で、私はいまでも大事な話はメモを取らないと落ち着きません。診察室でも、聞いたことを書き留め、分からない言葉はその場で聞き返す。それだけで、あとからの迷いがずいぶん減るものです。ただし、決めるのは本人と医師です。家族は判断の材料をそろえ、決めたことを支える役回りだと、私は考えています。
一人暮らしの親の場合は、術後の点眼をきちんと続けられるかが気がかりです。電話のついでに「目薬、さした?」と声をかける、点眼の表をつくって渡す、通院の日の送り迎えを手配するなど、離れていてもできることはあります。
本人の側にも言っておきたいことがあります。手術のあとしばらくは、片目が見えにくかったり、暮らしに制限があったりします。遠慮せず、家族や周りの人に頼ってください。頼られるほうは、案外うれしいものです。
手術を終えてからも、目との付き合いは続く
手術を受けたあと、次のようなことがあれば、次の診察日を待たずに、手術を受けた施設へすぐ連絡してください。
- 見え方が急に悪くなった
- 目の痛みが強くなった、充血がひどくなった
- 黒い点が急に増えた、光が走るように見える、視野の一部が欠ける
手術のあとには、まれに感染などの合併症が起こることがあり、その場合は早く対応するほど目を守りやすいとされています。夜間や休日に何かあったときの連絡先も、手術の前に確かめておくと安心です。
手術のあとしばらくは、まぶしさを感じやすかったり、見え方が日によって少し違ったりすることがあります。多くは時間とともに落ち着いていくとされていますが、気になることがあれば、次の診察のときにまとめて伝えられるよう、日付と様子を書き留めておくとよいでしょう。
また、手術から数か月、あるいは数年たってから、再び見え方がかすんでくることがあります。後発白内障と呼ばれるもので、外来でのレーザーによる処置で対応できることが多いとされています。かすみが戻ってきたと感じたら、眼科で相談してください。
白内障の手術を受けても、緑内障や網膜の病気など、ほかの目の病気が起こらなくなるわけではありません。手術が終わってからも、医師に言われた間隔で検査を続けることが、これからの見え方を守ることにつながります。
明るくなった景色を、できるだけ長く楽しめるように。迷ったときはひとりで抱え込まず、まず眼科で相談するところから始めてみてください。


