花粉の季節の目のかゆみ:アレルギー性結膜炎との付き合い方

三月に入ると、京都の街は少しずつ春の顔になります。北野天満宮の梅がほころび、日差しにやわらかさが出てくるころ、私のまわりでは「目がかゆい」という声もいっせいに増えはじめます。バスの中や駅のホームで、マスクの上の目をしきりにこすっている人を見かけるのも、この季節ならではの風景です。
花粉の季節の目のかゆみは、多くがアレルギー性結膜炎によるものです。毎年のことだからと我慢してしまいがちですが、暮らしの中の少しの工夫で楽になることもありますし、眼科で早めに相談しておくと、その春の過ごし方がずいぶん変わることもあります。今年の春を少しでも気持ちよく過ごすために、身近なところから考えてみます。
円山公園や哲学の道に花見の人が集まりはじめると、外で過ごす時間はさらに長くなります。春の京都は、出かけたくなる理由に事欠きません。だからこそ、目のかゆみのせいで季節を楽しめないのは、少しもったいないことです。
山に囲まれた街の春
京都は、東山、北山、西山と三方を山に囲まれた盆地の街です。市内のどこにいても、通りの先に山の稜線が見えます。その景色は京都らしさの一つですが、まわりの山にはスギやヒノキの林も多く、北山杉のように、昔からこの土地の暮らしや仕事と結びついてきた木もあります。
一般に、スギの花粉は早春から、ヒノキの花粉はそれに続いて春の半ばごろまで飛ぶとされています。両方に反応する人は、三月から四月、年によってはもう少し先まで、症状と付き合うことになります。飛ぶ量は年によっても日によっても違い、晴れて気温が上がった日や、空気が乾いて風の強い日、雨が上がった翌日などは多くなりやすいといわれます。花粉は風に乗って遠くまで運ばれるとされ、山から離れた街なかに暮らしていても、症状が出る人は少なくありません。
山に囲まれた地形が、街の花粉の量にどのくらい関係しているのか、はっきりした数字を私は持っていません。ただ、山を身近に感じながら暮らしていると、春先の風に花粉の気配を感じることはよくあります。天気予報と一緒に出される花粉の情報を、洗濯物を外に干すかどうかや、散歩の時間を決める目安にしておくと、少し気が楽になります。
かゆみの正体は、アレルギー性結膜炎
まぶたの裏側と白目の表面を覆う結膜は、外の空気に直接触れる場所です。そこに花粉が付くと、体が花粉を異物とみなして追い出そうとする反応が起こります。その過程でかゆみのもとになる物質が出て、かゆみや充血が現れます。これが花粉によるアレルギー性結膜炎で、決まった季節に症状が出ることから、季節性アレルギー性結膜炎とも呼ばれます。季節に関係なく一年中症状がある人は、ダニやハウスダストなどが原因になっていることもあります。
よく見られる症状は、次のようなものです。
- 目のかゆみ(目頭やまぶたのあたりが特にむずむずする)
- 白目の充血
- 涙が出る
- さらっとした、または糸を引くような目やに
- まぶたが腫れぼったい
- 目がゴロゴロする
くしゃみや鼻水、鼻づまりといった鼻の症状と一緒に出ることが多く、両方の目に同じように症状が出るのが一般的です。この「両目に同じように」という点は、あとで触れる別の病気との見分けにも関わってくるので、頭の片隅に置いておいてください。なお、アレルギー性結膜炎は、ほかの人にうつる病気ではありません。
外から持ち込まない、目に入れない
花粉の季節の対策は、突きつめれば「目に花粉を入れない」「家に花粉を持ち込まない」の二つです。特別な道具がなくても、できることはいくつもあります。
外に出るときは、メガネをかけるだけでも、目に入る花粉を減らせるとされています。顔に沿う形のものや、目のまわりを覆うカバーのついた花粉対策用のメガネもありますが、普段のメガネでも、何もかけないよりは違います。つばのある帽子は、髪に花粉が付くのを減らすのに役立ちます。上着は、ウールのように毛羽立った素材より、表面がつるっとした素材のほうが花粉が付きにくいともいわれます。
洗濯物は、花粉の多い日は部屋干しにするか、乾燥機を使うと安心です。外に干した日は、取り込む前によくはたいてから家に入れましょう。布団も同じです。換気のときは、窓を大きく開け放すより、少しだけ開けて短い時間で済ませるほうが、入ってくる花粉を抑えられます。花粉は床にたまりやすいので、掃除機をかけるだけでなく、ときどき床を拭いておくと落ち着きます。
京都の町家のように、通り庭や坪庭で外とゆるやかにつながっている家では、季節によって戸の開け閉めを少し変えてみるのも一つの方法です。風を通したい季節ではありますが、花粉の多い日だけは控えめにする。そのくらいの気持ちでいると、続けやすくなります。
春の一日を、時間ごとに見直してみる
朝、カーテンを開けたら、その日の天気と花粉の情報を確かめます。飛ぶ量が多そうな日は、洗濯物は部屋に干すと決めて、出かける服も表面のつるっとしたものを選ぶ。これで朝の準備はおしまいです。
通勤や通学の道では、メガネとマスク、それにつばのある帽子があると心強い味方になります。自転車で鴨川沿いを走る人は、風を正面から受けるぶん、目にも花粉が当たりやすくなります。顔に沿う形のメガネを一度試してみるのもよさそうです。
昼間、外にいる時間が長い日は、目がかゆくなっても手でこすらず、いったん屋内に入って落ち着くのを待ちます。お弁当を外で広げたくなる陽気の日でも、花粉の多い日は、屋内の窓越しに春を眺めるくらいがちょうどいいかもしれません。
夕方、家に帰ったら、玄関に入る前に上着や帽子を軽くはたきます。手を洗うついでに顔も洗い、外で着ていた服はできるだけ寝室に持ち込まないようにします。それだけで、夜の過ごしやすさはずいぶん変わります。
夜は、髪に付いた花粉が枕に移らないよう、できれば寝る前に髪を洗っておきます。枕カバーやシーツをこまめに替えるのも一つの方法です。こうして一日を通して見てみると、どれも手間のかかることではありません。それでも、重ねるほどに目に届く花粉は減っていきます。
こすらないための、小さな工夫
かゆいときに目をこするのは、ほとんど反射のようなものです。けれども、こすると結膜が刺激されて、かゆみがかえって強くなりやすく、目の表面に傷がつくこともあります。かゆみとこする動作の繰り返しを断つには、こすらないことがいちばんの近道です。
かゆみが強いときは、清潔なタオルを水で冷やしたものや、保冷剤を包んだハンカチを、まぶたの上からそっと当てると、少し落ち着くことがあります。冷たすぎるものを直接当てないよう、布を一枚はさんでください。爪を短く切っておく、目に手が伸びそうになったら両手を組む、といった地味な工夫も、意外と効き目があります。
アイメイクをする人は、症状の強い時期だけでも目のきわのメイクを控えめにしておくと、刺激が少なくてすみます。落とすときも、ごしごしこすらず、なでるようにやさしく。かゆい時期の目のまわりは、ふだん以上にデリケートになっています。
小さな子どもは、寝ている間に無意識に目をこすってしまうことがあります。朝起きたときにまぶたが腫れていないか、白目が赤くなっていないかを見てあげてください。子どもは「かゆい」とうまく言えないこともあるので、まばたきが増えた、目のまわりを触ってばかりいる、といった様子もサインになります。
子どもでは、かゆみがとても強く、まぶたの裏にぶつぶつができる重いタイプのアレルギー性結膜炎(春季カタル)が起こることもあり、黒目に傷がつく場合もあるため、眼科での治療が必要です。
目をじゃぶじゃぶ水で洗いたくなる人もいると思います。ただ、水道水で何度も洗うと、目の表面を守っている涙の成分まで流れてしまうことがあるといわれます。洗い方や目薬の使い方に迷ったときは、自己流で続けずに眼科で聞いてみるのが確かです。
コンタクトレンズを使っている人へ
コンタクトレンズを使っている人は、花粉の季節に症状が強く出やすいとされています。レンズの表面に花粉や汚れが付きやすく、それが目の表面にとどまって刺激になるためです。かゆいからといってレンズの上から目をこすると、レンズがずれたり、目の表面を傷つけたりするおそれもあります。
症状が強い時期は、できるだけメガネに切り替えて目を休ませる日をつくると、楽になることがあります。コンタクトレンズを使い続ける場合は、レンズのこすり洗いやケースの交換など、いつものケアをいつも以上にていねいにし、決められた装用時間を守ることが基本です。
レンズの種類を変えてみたい人や、レンズをつけたままさせる目薬かどうか迷う人は、自己判断せず、眼科で相談してください。コンタクトレンズは高度管理医療機器に分類されていて、目の状態を確かめながら使うものです。花粉の季節は、ふだんの定期検査とあわせて、目の表面の状態を見てもらうよい機会にもなります。
レンズの汚れがきっかけで、まぶたの裏にぶつぶつができる結膜炎が起こることもあります。レンズがずれやすくなった、目やにが増えた、つけているとすぐにかゆくなる、と感じたら、季節のせいと決めつけずに眼科で見てもらってください。
目薬のことは、眼科で相談を
毎年のことだからと、市販の目薬でしのいでいる人も多いと思います。症状が軽ければそれで落ち着くこともありますが、かゆみが強い、毎年とてもつらい、市販の目薬を使っても良くならないという人は、早めに眼科で相談してみてください。市販の目薬を使う場合も、薬局の薬剤師に症状を伝えれば相談に乗ってもらえます。ただ、数日使っても良くならないときや、症状がだんだん強くなるときは、使い続けずに眼科へ行きましょう。
眼科では、目の状態を見たうえで、医師が症状に合った点眼薬などを処方します。毎年症状が出る人については、花粉が飛びはじめるころや症状が軽いうちから治療を始める方法もあるとされています。どんな薬を、いつから、どのくらい使うかは、その人の症状や目の状態によって医師が決めることです。
受診するときは、いつごろから症状が出たか、どんな日や場所で強くなるか、鼻の症状があるか、いま使っている目薬やコンタクトレンズの種類を伝えられるようにしておくと、話がスムーズです。前の年の症状の出方を覚えていれば、それも手がかりになります。手帳やスマートフォンのメモに、かゆみの強さとその日の天気をひと言ずつ書いておくだけでも、翌年の受診のときに役立つ記録になります。
症状が強いときに使われる薬の中には、眼圧が上がることがあるため、医師が経過を見ながら使うものもあります。眼圧と目の病気の関係については、緑内障についてのコラムでも触れています。処方された目薬を家族で貸し借りしたり、前の年に残った目薬を自己判断で使ったりするのは避けましょう。同じように見える症状でも、原因が違えば合う薬も違います。
どこで相談すればよいか迷ったときは、目の悩み、どこに相談する?で相談先の考え方を紹介しています。仕事でなかなか平日に時間がとれない人は、働く世代の眼科受診も参考にしてみてください。
花粉のせいだと決めつけないで
春に目が赤くなると、つい「花粉のせい」と思ってしまいます。ただ、似たような症状でも、別の病気のことがあります。次のようなときは、アレルギー以外の原因も考えて、早めに眼科を受診してください。
- 片目だけが強く赤い
- かゆみより痛みが目立つ
- 目やにが多く、朝まぶたがくっついて開けにくい
- まぶしさが強い、見え方がかすむ
- 熱やのどの痛みなど、体の症状を伴う
たとえば、はやり目と呼ばれる流行性角結膜炎は、ウイルスによる結膜炎で、強い充血や目やに、涙が特徴です。片方の目から始まって、もう片方にうつることもあります。とてもうつりやすいので、疑わしいときは、目を触った手でほかの物に触れない、タオルを家族と分けるといった注意が要ります。学校や職場を休む必要が出てくることもあるので、自己判断で様子を見ずに、眼科で診てもらいましょう。
強い痛みがある、急に見えにくくなった、光がひどくまぶしいといった症状は、角膜(黒目の表面)の傷や感染、目の中の炎症など、結膜炎とは別のトラブルのこともあります。とくにコンタクトレンズを使っている人でこうした症状があるときは、すぐにレンズを外して、その日のうちに眼科を受診してください。夜間や休日で迷うときは、救急安心センターきょうと(#7119)に電話すると、受診が必要かどうかや受診先を相談できます。主な目の病気の特徴は、目の病気の解説でも紹介しています。
琵琶湖疏水沿いの桜が咲くころには、ヒノキの花粉も本格的に飛びはじめます。春の京都をのびのびと歩くためにも、つらさを我慢しすぎず、気になることがあれば早めに眼科で相談してみてください。
