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糖尿病と目:症状がなくても眼底検査を続ける理由

読了の目安 約11分文:森下 知佳

糖尿病と目:症状がなくても眼底検査を続ける理由

11月14日は世界糖尿病デーです。インスリンの発見に関わった研究者の誕生日にちなんで定められた日で、この時期には各地で建物が青い光でライトアップされる催しも行われます。糖尿病というと血糖値や食事のことに目が向きがちですが、目の健康とも深く関わる病気です。

糖尿病網膜症は、日本の中途失明の原因として、緑内障や網膜色素変性などとともに上位に挙げられています。それにもかかわらず、早い段階ではほとんど自覚症状がありません。見え方に変わりがないのに、なぜ眼科に通い続ける必要があるのか。網膜で起きていることを順にたどっていくと、その理由が見えてきます。

高い血糖が、網膜の細い血管を傷める

網膜は、目の奥に広がる薄い膜で、カメラでいえばフィルムやセンサーにあたる部分です。光を受け取って信号に変え、視神経を通じて脳へ送る役目をしています。網膜には、酸素や栄養を届けるための細い血管が、網の目のように張り巡らされています。

血糖が高い状態が長く続くと、こうした細い血管の壁が少しずつ傷んでいきます。血管がもろくなると、壁の一部がふくらんで小さなこぶができたり、血液や血液中の成分が血管の外にしみ出したりします。また、血管そのものが詰まって、その先に血液が届きにくくなる部分も出てきます。

血液が届かなくなった網膜は、酸素が足りない状態になります。すると、それを補おうとして、新しい血管(新生血管)が伸びてきます。ところが、この新しい血管はもともとの血管に比べて非常にもろく、破れて出血しやすい性質を持っています。出血が目の中の硝子体に広がったり、新生血管とともにできる膜が網膜を引っ張って網膜剥離を起こしたりすると、視力に大きな影響が出ます。新生血管が目の前のほうにまで及ぶと、眼圧が上がるタイプの緑内障を起こすこともあります。緑内障という病気そのものについては、以前「緑内障:自覚症状のないまま進む病気と40歳からの検査」で書きました。

こうした変化は、多くの場合、何年もかけてゆっくり進みます。血糖が高い期間が長いほど、網膜症は起こりやすくなるとされています。糖尿病は、診断を受けた時点ですでに血糖の高い状態がしばらく続いていることもあるため、診断を受けたら、見え方に問題がなくても一度眼科で眼底検査を受けておくことが勧められています。

網膜症の進み方を、段階ごとに見る

糖尿病網膜症は、網膜の状態によっていくつかの段階に分けて考えられています。分け方にはいくつかの方式がありますが、日本では次のような段階で説明されることが多くあります。

段階 網膜で起きていること 自覚症状
網膜症なし 眼底検査で、網膜症による変化は見られない なし
単純網膜症 細い血管に小さなこぶができたり、点のような小さな出血や、血液成分のしみ出しが見られたりする ほとんどない
増殖前網膜症 血管の詰まりが目立つようになり、血液の届かない部分が広がり始める ほとんどないことが多い
増殖網膜症 新生血管が伸び、硝子体への出血や、網膜を引っ張る膜ができることがある 出血や網膜剥離が起きると、急に見えにくくなる

表の右の列を見ると分かるように、かなり進んだ段階になるまで、自覚症状がほとんどないのがこの病気の特徴です。段階が進むほど治療が必要になる可能性は高くなり、検査の間隔も短くなっていきます。次の検査をいつ受ければよいかは、網膜の状態をみて眼科医が決めます。

「単純」という名前から、軽いものとして受け止められることがあります。けれど、この段階は網膜に変化が出始めているというサインです。眼科で単純網膜症と言われたら、内科での血糖や血圧の管理を見直すきっかけとして受け止めたいところです。

段階の名前は、医療機関や資料によって少しずつ表現がちがうことがあります。自分の目がいまどの段階にあるのか、前回と比べて変わったのかどうかは、受診のたびに眼科医に確かめておくと、検査を続ける意味が実感しやすくなります。目の病気の一般向けの説明は、日本眼科学会のウェブサイトにも掲載されています。

黄斑浮腫:見え方の中心に起きるむくみ

段階とは別に、もうひとつ知っておきたいのが糖尿病黄斑浮腫です。

黄斑は、網膜の中心にある小さな部分で、文字を読んだり、人の顔を見分けたり、細かいものを見たりするときに働きます。網膜の中でも、見え方の質をもっとも左右する場所です。

傷んだ血管から血液中の水分がしみ出して黄斑にたまると、黄斑がむくんだ状態になります。これが黄斑浮腫です。黄斑浮腫が起こると、視力が下がる、ものがかすむ、ゆがんで見える、といった症状が出ることがあります。

黄斑浮腫は、網膜症の段階にかかわらず起こりうるとされています。網膜症がまだ早い段階であっても、黄斑浮腫によって見え方が悪くなることがあるため、眼底検査ではこの部分もあわせて確かめます。眼科では、網膜の断面を撮影する検査によって、むくみがあるかどうかや、その程度を調べることがあります。

黄斑浮腫によるゆがみやかすみは、片方の目だけに起こると気づきにくいものです。ときどき片目ずつ手で隠して、新聞の文字や窓枠のまっすぐな線がゆがんでいないか、ぼやけていないかを見ておくと、変化に気づくきっかけになります。もっとも、これは目安にすぎません。片目ずつ見て異常がなかったからといって、眼底検査を省いてよいことにはなりません。

なぜ、早い段階では気づかないのか

網膜症がかなり進むまで自覚症状が出にくいのには、いくつかの理由があります。

ひとつは、網膜の中で、ものを見るときにおもに使われているのが中心の黄斑だということです。網膜症の初期の変化は、黄斑から離れた周辺部で起こることが多く、そこに小さな出血や血管の傷みがあっても、ふだんの見え方にはほとんど影響しません。

もうひとつは、変化がゆっくり進むことです。見え方が少しずつ変わっていっても、本人はなかなか気づきません。両目で見ていると、片方の目の不調をもう片方の目が補ってしまうこともあります。

さらに、網膜には痛みを感じるしくみがありません。血管が傷んでも、出血があっても、それが痛みとして知らされることはないのです。

こうした理由から、「視力がよい」ことと「網膜が無事である」ことは、同じではありません。職場の健診などで視力を測り、結果に問題がなかったとしても、それは網膜の状態を確かめたことにはなりません。視力検査の結果がよくても、網膜症が進んでいることはありえます。網膜の状態を知るには、眼底を直接見る検査が欠かせません。

眼底検査を受ける日のために

眼底検査では、目薬で瞳を広げてから網膜をくわしく見ることがあります。瞳を広げる目薬は、効いてくるまでにしばらく時間がかかるため、受付から検査が終わるまで、ふだんの受診より長めの時間を見込んでおくと落ち着いて受けられます。

目薬を使ったあとは、数時間ほどまぶしさを感じたり、ピントが合いにくくなったりします。検査を受ける日は車やバイク、自転車の運転を控え、公共交通機関を使うか、家族に送迎を頼むようにします。晴れた日の帰り道は、帽子やサングラスがあるとまぶしさが和らぎます。

受診の際には、糖尿病で通っている内科の名前、飲んでいる薬が分かるお薬手帳、最近の血液検査の結果などを持っていくと、眼科医が全体の様子をつかみやすくなります。網膜の状態によっては、眼底の写真を撮ったり、血管の様子をくわしく調べる検査を追加したりすることもあります。どの検査が必要かは、眼科医が判断します。

糖尿病眼手帳と、内科と眼科の連携

糖尿病の治療では、内科と眼科がそれぞれの立場から体を見ています。内科では血糖のほか、血圧や脂質の管理を行い、眼科では眼底検査で網膜の状態を確かめます。網膜症の進み方には血糖だけでなく血圧なども関わるとされているため、両方の情報がそろってはじめて、全体の様子が見えてきます。

ただ、内科と眼科は別々の医療機関であることが多く、検査の結果が自然に共有されるとは限りません。そこで役に立つのが、手帳を使った情報のやりとりです。

糖尿病眼手帳という手帳があります。眼科で受けた検査の結果や網膜症の段階、次の受診の目安などを書き込んでおくもので、内科を受診するときに見せれば、内科の医師も目の状態を知ることができます。反対に、内科で受けた検査の値を眼科で伝えるときの手がかりにもなります。まだ持っていない場合は、かかっている眼科や内科で尋ねてみてください。

手帳は、内科と眼科のどちらにも毎回持っていくことで役に立ちます。お薬手帳など、ほかの手帳と一緒にまとめておくと、持ち忘れが減ります。

内科の医師から眼科の受診を勧められたら、それは目にも気を配る時期が来たという合図です。治療の進め方によっては、内科の医師が目の状態を先に知っておきたい場合もあります。紹介状や手帳を通じて、二つの科がやりとりをしながら進めていくのが、糖尿病と目の付き合い方の基本です。

住んでいる地域によっては、眼科まで遠く、定期的に通うことが負担になる場合もあるでしょう。受診の予定を内科の通院日と合わせる、家族の送迎の都合を先に決めておくなど、続けるための工夫については「通院に時間がかかる地域での眼科との付き合い方」で取り上げています。

治療について知っておきたいこと

網膜症や黄斑浮腫の治療は、状態に応じて選ばれます。網膜にレーザーを当てて、血液の届かなくなった部分の悪化や新生血管を抑える治療、目の中に薬を注射して、むくみや新生血管を抑える治療、硝子体の出血や網膜を引っ張る膜を取り除く手術などがあります。

どの治療を、どのタイミングで行うかは、検査の結果をもとに眼科医が判断します。治療は一度で終わるとは限らず、何回かに分けて行ったり、経過を見ながら繰り返したりすることもあります。

治療を勧められたときは、その場で分からないことをそのままにしないことです。治療の目的は何か、どのくらいの期間や回数がかかりそうか、治療の当日やその後に仕事や運転を控える必要があるか、といった点は、あらかじめ紙に書いて持っていくと聞きやすくなります。家族に付き添ってもらい、一緒に説明を聞くのもよい方法です。説明を受けて迷うことがあれば、その気持ちも含めて担当の医師に伝えてください。

治療によって網膜症の進行を抑えることはできても、一度損なわれた見え方が元どおりに戻るとは限りません。見え方に変化が出る前の段階で網膜症を見つけ、必要な時期に治療を始められるようにする。定期的な検査が勧められているのは、そのためです。

また、目の治療と並んで、内科での血糖や血圧の管理を続けることも欠かせません。眼科で治療を受けているからといって、内科の通院をやめてしまわないようにしたいものです。反対に、内科の数値が落ち着いてきたからといって、眼科の検査を自己判断で間引くことも避けてください。網膜の変化は、血糖の値とは別に、眼底を見てはじめて分かるものだからです。

急な見え方の変化は、すぐに受診を

定期検査の予定がまだ先であっても、次のような変化があったときは、予定を待たずに、できるだけ早く、できればその日のうちに眼科を受診してください。

  • 急に視力が落ちた、視界全体がかすむ
  • 墨を流したような黒い影が広がった、黒い点や糸くずのようなものが急に増えた
  • 視界の一部が、カーテンをかけたように見えなくなった
  • ものがゆがんで見える、見ようとするところの中心が見えにくい
  • 目の強い痛みに、頭痛や吐き気をともなう

増殖網膜症では、新生血管が破れて硝子体に出血が広がることがあり、このとき急に見えにくくなります。網膜剥離が起きている場合もあります。光が走るように見える、飛蚊症が急に増えた、といった網膜剥離のサインについては、「飛蚊症と網膜剥離:様子を見てよいもの、急ぐべきもの」でくわしく取り上げました。急な目の痛みに頭痛や吐き気をともなうときは、急性緑内障発作のこともあり、その日のうちの受診が必要です。

夜間や休日で受診先に迷うときは、救急安心センターきょうと(#7119)に電話で相談できます。看護師などが、受診の必要性や受診できる医療機関を案内してくれます。命に関わるような緊急時は、迷わず119番に連絡してください。

続けることが、いちばんの備え

糖尿病網膜症は、早い段階では自覚症状がなく、気づいたときにはかなり進んでいることがある病気です。裏を返せば、定期的に眼底検査を受けていれば、見え方に影響が出る前に変化をとらえることができます。

糖尿病と診断されたら、まず一度眼科で眼底検査を受け、そのあとは眼科医が示す間隔で検査を続けること。糖尿病眼手帳などを使って、内科と眼科の両方に自分の状態を知ってもらうこと。そして、急な見え方の変化があれば、予定を待たずに受診すること。どれも地道な積み重ねですが、何年も先の見え方を守ることにつながります。

職場や自治体の健診で血糖値の高さを指摘されたものの、まだ内科を受診していないという方もいるかもしれません。健診の結果を受け取ったあとの流れや、目の検査を受ける場面については、「目の健康診断ガイド」で紹介しています。世界糖尿病デーをきっかけに、引き出しにしまったままの健診結果を一度見直してみてください。

この記事を書いた人森下 知佳

医療・健康分野を十数年書いてきたライター。学会や公的機関が公開している資料を読み込み、目の病気のしくみや検査の意味を順を追って説明します。担当は目の病気と検診の話題。

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