コンタクトレンズのトラブルを防ぐ毎日のケア

眼鏡店で働いていた頃、コンタクトレンズを使っているお客さんから意外なほど多く聞かれたのが、「レンズケースって、いつ替えればいいんですか」という質問でした。レンズそのものは決まった時期に買い替えていても、ケースは何年も同じものを使い続けている。そういう方は決して少なくありませんでした。
コンタクトレンズは、眼鏡と違って目に直接触れる道具です。正しく使えばとても便利ですが、毎日のケアが少しずつ崩れていくと、目のトラブルにつながることがあります。ここでは、ケアの手順を一つずつおさらいしながら、なぜそれが必要なのか、どんなときにすぐ眼科へ行くべきなのかを書いていきます。
コンタクトレンズは「高度管理医療機器」
コンタクトレンズは、法律のうえで高度管理医療機器に分類されています。不具合が起きたときに健康への影響が大きいものとして、製造や販売のルールが厳しく決められている区分です。販売するにも許可が必要です。視力を補正しない、おしゃれ目的のカラーコンタクトレンズも同じ扱いになります。
レンズがのるのは、黒目の表面をおおう角膜です。角膜には血管がなく、必要な酸素の多くを涙や空気から取り込んでいるとされています。レンズはその上にふたをするようにのるため、長い時間つけていると角膜が酸素不足になりやすくなります。また、レンズの汚れや傷、ケースの中で増えた微生物が、角膜を傷つけたり、感染の原因になったりすることがあります。
度数が合っていることと、目に合っていることは別の話です。レンズのカーブや大きさ、素材が自分の目に合っているか、角膜に傷や変化が出ていないかは、眼科で検査を受けないと分かりません。店頭でも「度数さえ分かれば買えるんでしょう」と言われることがありましたが、レンズ選びは度数の数字だけでは決まらないのです。
毎日のケアを、手順ごとにおさらい
ここでは、2週間や1か月などで交換するタイプのソフトレンズを例に、毎日の流れを確認します。使っているケア用品の説明書がある場合は、そちらの手順を優先してください。
1. まず石けんで手を洗う
レンズに触れる前に、石けんで手を洗います。指の間や爪のまわりまで洗い、清潔なタオルやペーパーでふきます。ハンドクリームは、レンズの扱いが終わってから塗るようにしましょう。手についた油分や汚れは、そのままレンズに移ってしまいます。爪が長いとレンズを傷つけやすいので、短く整えておくと扱いが楽になります。
2. 外したレンズは、こすり洗いをする
外したレンズを手のひらにのせ、ケア用品の液をたらして、指の腹で表と裏をやさしくこすります。こすり洗いは、レンズについた汚れや微生物を落とす基本の作業です。疲れて帰った夜ほど省きたくなりますが、ここを省くとトラブルにつながりやすいとされています。
3. すすいで、新しい液でケースに保存する
こすったあとは、ケア用品の液でよくすすぎ、新しい液を入れたケースに保存します。前の日の液を捨てずに継ぎ足すのはやめてください。すすぎにも保存にも、水道水は使いません。理由はのちほど書きます。
4. ケースは洗って乾かし、定期的に新しくする
朝、レンズを取り出したあとのケースは、中の液を捨て、ケア用品の液ですすいでから、ふたを開けて伏せ、自然に乾かします。ケースの内側には、目に見えなくても汚れや微生物がたまっていきます。どんなに丁寧に洗っていても、ケースは消耗品と考えて、定期的に新しいものに交換してください。交換の目安は、ケア用品の説明書に従うのが確実です。冒頭の質問に、私はいつもこう答えていました。
5. 交換時期と使用期限を守る
1日使い捨てのレンズは、一度外したら捨て、翌日に使い回しません。2週間や1か月で交換するレンズは、開封した日から数えるのが一般的で、つけなかった日があっても期限は延びません。開封日をスマートフォンのカレンダーやケースのそばのメモに書いておくと、うっかりを防げます。レンズのパッケージに書かれた使用期限や、ケア用品の開封後の使用期限も確かめておきましょう。
6. 朝、入れる前に目とレンズを確かめる
レンズを入れる前に、表裏が正しいか、傷や汚れ、破れがないかを見てください。少しでも欠けているレンズは、もったいなくても使わないことです。そして、鏡で自分の目も見ておきます。白目が赤い、痛い、かすむといった日は、レンズを入れずに眼鏡で過ごし、続くようなら眼科へ。左右で度数が違う人は、いつも右から、と順番を決めておくと取り違えを防げます。
ハードレンズを使っている人は、ハードレンズ用のケア用品で、同じように毎日洗浄し、保存します。種類によって手順が違うので、処方を受けた眼科や購入した店で確認してください。
時間と水、気をつけたい二つのこと
ケアの手順と同じくらい気をつけてほしいのが、レンズをつけている時間と、水との付き合い方です。
装用時間は、眼科で指示された時間を守ってください。適した時間は、レンズの種類や目の状態によって人それぞれで、同僚や家族と同じとは限りません。朝から夜遅くまでつけっぱなしの日が続くと、角膜が酸素不足になりやすくなります。家に帰ったら外して眼鏡に替える、休日は眼鏡で過ごす日をつくるなど、目を休める時間を意識してみてください。
眠るときは、かならずレンズを外します。ソファでのうたた寝や、移動中の居眠りも要注意です。少しだけのつもりが朝まで、ということもあります。夜遅く帰る日が多い人は、帰宅したらまず外す、という順番を決めておくと忘れにくくなります。
そして水です。水道水や川、プール、温泉などの水には、アカントアメーバなどの微生物がいることがあります。レンズのケアに水道水を使わないのはもちろん、レンズをつけたまま水に触れる場面にも注意が必要です。水泳のときにどうするかは、眼科で相談してください。シャワーや洗顔のときに、水が目に入らないよう気をつけることも習慣にしておきましょう。
乾燥にも気をつけたいところです。パソコンやスマートフォンの画面を見ているとまばたきが減り、レンズも目も乾きやすくなります。冷暖房の効いた部屋や、車のエアコンの風が直接顔に当たる席も同じです。レンズをつけたまま目薬をさしたいときは、手元の目薬を使ってよいかどうかを、眼科や薬局の薬剤師に確かめてからにしてください。
化粧をする人は、レンズを入れてから化粧をし、化粧を落とす前にレンズを外す順番にすると、化粧品がレンズにつきにくくなります。
ケアを省くと、なぜ危ないのか
コンタクトレンズのトラブルのなかで、もっとも気をつけたいのが角膜の感染症です。
角膜に細菌が感染して起こる細菌性角膜炎は、進み方が速いことがあります。アカントアメーバという微生物による角膜炎は、水道水や土など身近な環境にいる微生物が、レンズやケースを介して角膜に入り込むことで起こるとされています。どちらも治療に時間がかかることがあり、視力に影響が残ることもあるとされています。
共通しているのは、多くの場合、日々の使い方にきっかけがあることです。こすり洗いを省く、ケースを洗わない、交換しない、水道水を使う、期限を過ぎても使う、装用時間を守らない、つけたまま眠る。どれも「一度くらいなら」と思いがちなことばかりです。けれども、その小さな省略が重なったところで、トラブルは起こりやすくなります。
感染症のほかにも、レンズの汚れや酸素不足が続くことで、角膜に小さな傷ができたり、まぶたの裏にぶつぶつができて違和感が続いたりすることがあります。こうした変化は、本人が気づかないうちに少しずつ進むこともあります。
毎日のケアが負担に感じる人は、ケアの手間が少ない1日使い捨てのレンズが合うかどうか、眼科で相談してみる方法もあります。生活に合った種類を選ぶことも、トラブルを防ぐ工夫のひとつです。
痛い、赤い、まぶしい。そんなときはすぐ外して眼科へ
次のような症状があるときは、レンズのトラブルのサインかもしれません。
- 目が痛い。ゴロゴロする感じが、外しても治まらない
- 白目が赤く充血している
- いつもより光がまぶしい
- かすむ、見えにくい
- 涙や目やにが増えた
こうした症状に気づいたら、まずすぐにレンズを外し、眼鏡に替えてください。新しいレンズを入れ直して様子を見るのはやめましょう。そして、できればその日のうちに眼科を受診します。とくに、痛みが強い、見えにくさがある、まぶしさが続くといった場合は、急いだほうがよい状態のことがあります。手元にある目薬で様子を見るより、まず診てもらうことを優先してください。受診するときは、使っていたレンズとケースを持っていくと、原因を調べる手がかりになることがあります。
夜間や休日に強い痛みが出たときの考え方は、目の救急:すぐ受診したい症状と応急手当にまとめています。
花粉の季節には、かゆみや充血がレンズのトラブルなのか、アレルギーなのか、自分では区別がつきにくいことがあります。目をこすりたくなる時期のレンズとの付き合い方は、花粉の季節の目のかゆみのコラムも読んでみてください。
定期検査と、ネットで買うときの注意
コンタクトレンズを使っている人には、症状がなくても眼科での定期検査が勧められています。角膜の小さな傷や酸素不足による変化は、自覚症状がないまま進むことがあるからです。度数が変わっていないか、レンズに傷や汚れがないか、レンズが目の上で正しい位置に収まっているかも確かめられます。受診の日は、ふだん使っているレンズをつけて行くよう言われることもあるので、予約のときに確認しておくと安心です。検査の間隔は、眼科で指示された目安を守ってください。
最近は、インターネットでレンズを買う人も増えました。手軽で便利ですが、次のことは押さえておきたいところです。
- 初めてコンタクトレンズを使うとき、種類やメーカーを変えるときは、眼科で検査を受けてから選ぶ
- 度数やカーブを自分の判断で変えない
- ネットで買っていても、眼科での定期検査は続ける
- 高度管理医療機器を販売するには許可が必要なので、販売元がはっきりしているかを確かめる
おしゃれ目的のカラーコンタクトレンズを買う場合も、考え方は同じです。度数が入っていないから気軽に、という感覚で選ぶと、目に合わないレンズを長時間つけ続けることになりかねません。
平日は仕事で眼科に行く時間がとれない、という方は、働く世代の眼科受診:平日夜・土曜・予約の使い方を読んでみてください。レンズの正しい使い方については、日本コンタクトレンズ協会も一般向けの情報を発信しています。
初めてレンズを使う中高生と、その家族へ
部活動や見た目のことをきっかけに、中学生や高校生がコンタクトレンズを使い始めることがあります。店にも、親子で相談に来られる方がよくいました。
若い人は、多少の違和感があっても我慢してしまったり、友だちとレンズを貸し借りしてしまったりすることがあります。レンズの貸し借りは、度数やカーブが合わないだけでなく、感染のもとにもなるので絶対にやめさせてください。ケアを省いたときのトラブルは、年齢に関係なく起こります。初めのうちは、保護者がケアの手順を一緒に確かめる、ケースの交換時期をカレンダーに書いておく、といった手助けがあると心強いものです。修学旅行や合宿など、家を離れるときの持ち物にも、ケア用品と予備の眼鏡を忘れずに入れてください。
そして、目が痛い、赤いといった変化を、子どもが自分から言い出せるようにしておくことも欠かせません。「痛かったら、すぐ外して眼鏡にしていいんだよ」と、あらかじめ伝えておくだけでも違います。レンズを使い始めるときは、かならず眼科で検査を受け、使い方の説明を親子で一緒に聞いておきましょう。
予備の眼鏡を、一本かならず
最後に、眼鏡店にいた者として、これだけは書いておきたいと思います。コンタクトレンズを使っている人こそ、今の目に合った予備の眼鏡を一本持っておいてほしいのです。
目に違和感が出たとき、すぐにレンズを外せるかどうかは、代わりの眼鏡があるかどうかにかかっています。予備の眼鏡がないと、多少痛くても「今日だけは」とレンズをつけ続けてしまいがちです。何年も前につくった眼鏡しかない場合は、度数が今の目に合っているかを確かめてみてください。旅行や出張のときも、眼鏡をかばんに入れておくと安心です。災害などで水が自由に使えなくなったときにも、眼鏡があれば困りません。
40代を過ぎて、手元が見えにくくなってきたコンタクトレンズの使用者もいるでしょう。遠近両用のコンタクトレンズや、レンズの上からかける手元用の眼鏡という選択肢もあります。手元用の眼鏡の選び方は老眼鏡と遠近両用のコラムに書きましたので、あわせてどうぞ。
コンタクトレンズは、毎日の小さな手間で、長く快適に使える道具です。ケアを習慣にして、少しでもおかしいと感じたらレンズを外し、眼科へ。遠回りに見えて、それがいちばんの近道です。
